人はいろいろと嫌な思い込みを持っている。

例えば「自分は悪い人間だ」という思い込みを持つ人が多い。

「自分は悪い人間だ」という思い込みを持つ人の中には、その思い込みが間違いであることを証明しようとしてたくさんの良いことをしようとする人もいる。

ところが、どんなに善行を積んでも「自分は悪い人間だ」という思い込みは消えない。消えないどころか、ちょっとしたことで「やっぱり自分は悪い人間だ」という思い込みを強化する体験をし、それなのに良いことをしようとしている自分は「偽善者だ」などと新たな思い込みを持ったりする。

現実には「自分は悪い人間だ」と思い込んでいる人は、たいてい普通の人間である。本当に悪い人間はそういう反省などすらせず、良心の呵責を感じることもなく、息を吸うようにして悪行を重ねるものだ。

同じように「自分は頭が悪い」という思い込みを持つ人もいる。

そしてそういう人たちの中には、自分は頭が悪くない、ということを証明するために一生懸命勉強し、学校に通ったり良い成績を取ったり学位をとったりする人もいる。

どんなに良い成績をとっても上には上がいて、「やっぱり頭のいい人間には敵わない」「自分はこんなに努力しても頭が悪いからこの程度だ」などと思って、元々の思い込みが強化される。

これも同じで、「自分は頭が悪い」と思っている人は、たいてい普通の人間である。本当に頭の悪い人間は自分の頭の悪さに気がつかない。気がつかないから周りの人間に迷惑をかけ、迷惑をかけていることにも気がつかない。「自分は頭がいい」と思い込んでいる人間もいるくらいだ。

思い込みというのは、実のところ、あまり意味のないものだ。

思い込みを無くそうとしても、たいていは徒労に終わる。徒労に終わるどころか、上の例にあるように逆効果になったりすることが多い。

ではどうしたら良いのか。

自分が嫌な思い込みを持っていることに気づいたら、その事実をしっかり直視して、その事実に重要性がないことをはっきりと理性的に認識して、放っておくのが一番いい。

セラピーを受けて思い込みを除去しようとしたり、心の傷を癒そうとしたりする人たちもいるが、そういう努力は一時的な効果しか産まない。「癒された」「潜在意識を再プログラムした」「生まれ変わった」「思い込みの嘘を反証できた」などという宣言を聞くことがあるが、そういう悟りを得た人が数年経ってまたぞろ同じ病に苦しみ、もっとセラピーを受け、治療を受ければ受けるほどかえってこじらせるということも少なくない。

問題の中には、解決するよりも回避したほうがいいものも多い。思い込みの問題はその典型だ。

人によっては、この有害な思い込みを生い立ちのせいにしたり親のせいにしたり人生経験のせいにしたりする人もいる。全て不毛な悪あがきだ。

自分が自分自身をどう思っていようと、それは自分の人生には関係ない。

そういうことが「自意識(アイデンティティ)と創り出す思考」(ロバート・フリッツ著 evolving社 2018年)に詳しく解説されている。まだ読んでいない人には一読をお勧めする。すでに読んだ人には再読をお勧めする。再読した人には三読をお勧めする。私自身、何度も読み、「本当だろうか」と観察し、実験し、経験し、分析し、瞑想し、その確からしさにうなり、つくづく得心した。

セラピーを受けるのは悪いことではないが、セラピーを問題解決や状況対応の道具に使うのがよくないのである。自分の人生を見直し、生きたい人生を創り上げることが大切で、そのためには嫌な思い込みを消そうとするのではなく、現実の一部として理解し、無駄な戦いをやめ、創造の冒険に乗り出すのがいい。

そして自分の人生を創り出したい人には新刊 Your Life as Art(evolving社 2020年)をお勧めする。