仕事が楽しい、心から楽しめる、という感覚で毎日を過ごしている人たちはとても幸福です。

音楽や芸術を仕事にしている人たちの多くは、この感覚を当たり前のように持っています。作品を生み出すことそのものが喜びなのです。その作品が高く評価されて正当な報酬を得られるに越したことはありません。しかし自分の作り出したい作品を作り出すこと自体が楽しいので、評価や報酬は二の次です。コンサートでアンコールを受けた演奏家が「予定外の仕事を要求するなら追加料金をよこせ」と言うことはありません。演奏することそのものが喜びであり、それが楽ではなくても楽しいことなのです。

スポーツや芸能を職業にする人たちの多くも同じです。スポーツや芸能も非常に競争の激しい世界です。世間で認められて名をなす人たちは全体のごくわずかです。そしてピラミッドの頂点に立ったアスリートやアーティストでさえ、長期間にわたってその地位に居続けることは珍しく、非常な困難です。ですから仕事が楽なわけがありません。しかし仕事をすること自体はやはり喜びなのです。

プロの音楽家でも芸術家でもない私たちが、自分の職業を道楽にすることは可能なのでしょうか。

もちろん可能です。

ただし条件があります。自分の好きなことや得意なことを見つけ、それが他の人にとって価値のある仕事になるまで磨き上げることです。

そのためには二つの方法があります。

ひとつの方法は、自分が本当に打ち込むことのできる道楽を徹底的に追求し、それを売り物にすることです。多くの音楽家・芸術家・アスリート・アーティストがそれをやっています。

ただし音楽や芸術や芸能やスポーツを自分の職業にするのは本当に難しいことです。無数の人たちが挑戦し、才能と運に恵まれたごく一握りの人たちだけが成功を手に入れられる世界です。一人の成功者の陰には数えきれないほどの挫折があります。もちろん、挫折してもまだ自分が挑戦したことを喜べる、そんな人なら大いに挑戦すべきです。

もうひとつの方法は、自分が就いた職業を徹底的に追求し、その仕事の中に自分が心から楽しめる価値を見出すことです。最初は好きで始めた仕事じゃなくても、続けていくうちに自分の才能や適性や好き嫌いを発見し、それが楽しみになっていくのです。

今、ピーター・ドラッカーの著書を読書会で毎月読んでいます。若き日のピーターは学業に飽きて実業を志します。学問の世界で一流になるのは大変だが、実業の世界では二流でも食っていける、という消極的な理由から実業を志したと言います。しかしドラッカー氏は長年の経験から自分の強みを見出し、その後は世界を牽引するほどの学者になりました。最初から自分の才能や適性を知っていたわけではないのです。

ドラッカー氏の薦める方法はシンプルです。新しい仕事に就いたとき、自分の役目は何かを明確に定義し、それを書き留めておくのです。そして定期・不定期のタイミングで自分の仕事ぶりを振り返り、何ができたか・できなかったか、何が自分の強みか・弱みか、何を継続・強化する必要があるか、何をやってはいけないか(自分にできない類の仕事であるか)をフィードバックして分析するのです。

四半世紀前にこのアイデアを知った私は、愚直にフィードバック分析を続けていました。そして自分にとって何が大事か、何が楽しいのか、何が得意か、何が苦手か、を地道に分析してきました。苦手なことは避け、あるいは他の人に任せ、得意なことを磨き上げて仕事の中心に置く、という単純なことを繰り返してきました。

職業の道楽化は可能です。ただし、そのためには自分の好き嫌いや強み弱みを知る必要があります。そして自分の嗜好や得手不得手を知るためには、仕事に打ち込み、失敗や成功を積み重ね、経験した現実から学ぶ必要があります。

職業の道楽化に成功すると、生きているほとんど全ての時間が道楽になります。仕事をしていない時間が自由であるだけでなく、仕事に打ち込んでいる時間が遊びや趣味やスポーツや芸術のようになります。

お金のために仕事をするのが悪いわけではありません。自分や家族の生活を支えるために働く必要があれば、好きではない仕事でも甘んじて引き受けたらいいでしょう。しかし人生は長い。仕事を道楽にすることが可能だとしたら、どうやってそれを実現できるか、どのくらいの時間をかけたらいいのか、どういう工夫や努力が必要なのか、ぜひ考えてみてください。

フィードバック分析は、職業を道楽化する鍵となる方法です。試してみることをおすすめします。