仕事で成果を上げている人たちの中には2種類の人たちがいる。

ひとつは、自分が何をやっているのかわかっている人たちである。彼らは仕事のプロである。仕事のプロは例外なく自分が何をやっているのかわかっている。だから「どうやって成果を上げたのか」を説明することができる。

一方、自分が何をやっているのかわかっていない人たちもいる。この人たちはプロではない。たまたま運がよかったか、がむしゃらに一生懸命働いたか、あるいは努力と幸運の両方に恵まれて成果を上げている。成果を上げても自分がどうして成果を上げることができたのかわからない。ひとに聞かれても説明できない。

もし自分の部下が成果を上げているのに「どうやって成果を上げたのか」を理解していないなら、彼らはプロの仕事をしていない。幸運や努力の結果として成果を上げているだけだ。その場合、きっちり話を聞いて「自分が何をやっているのか」「何をやるべきなのか」「どんな成果を上げているのか」「どんな成果を上げる必要があるのか」などについて指導してやる必要がある。

もし自分の部下がプロならば、自分が何をやっているのかわかっているから、尋ねればいくらでも説明を聞くことができる。成功の秘訣を聞き、それを組織全体のために活かすことができるかもしれない。

しかしここでもう一つの可能性がある。それは、自分が何をやっているのか承知していて、上司に聞かれてもしらばっくれる人たちの存在だ。

なぜわかっているのに正直に答えないのか。もちろん上司を信用していないからである。あるいは会社を信用していない、会社のシステムを信用していない。

自分の成功の秘訣をうっかり漏らしてしまったら、せっかく成果を上げているのに手柄を独り占めにできず、損をすると思っているのである。あるいは思っているだけじゃなく、本当に損をするのかもしれない。つまり彼らは自分の利益のために保身を図っているのである。そして彼らがもし自分の成功の秘訣を会社に漏らすことによって本当に不利益を被りうるのであれば、彼らを責めることなどできない。その会社のシステムが悪いのだから。

「誰かが得をすれば必ず誰かが損をする」と思い込んでいる人たちが大勢いる。それは単なる思い込みではなく、実際にある種の社会的状況における真実だ。例えば、自分だけこっそりトップの成績を上げていることで手柄を独り占めにしてたくさんボーナスをもらったり昇進したりするということはありうる。

しかし「誰かが得をすれば誰かが損をする」という思い込みは、多くの場合に正しくない。それは昔からある、ただの思い込みにすぎない。

株価が上がって資本家が得をすると労働者は必ず損をする、と思い込んでいる人たちがいる。これは馬鹿げた妄想だ。

さらに言うと、「誰かが得をすると誰かが損をする」と思い込んでいる人たちは、他人の成功や幸せを心から喜ぶことができない。隣人が金持ちになると自分が貧乏になる、と思い込んでいる。同僚が出世すると自分は落伍する、と思い込んでいる。ライバルが幸せになると自分は不幸せになる、と思い込んでいる。

経済はゼロサムゲームではなく、ビジネスはただの競争ではない。ビジネスも経済も根本にあるのは価値の創造である。価値の創造ではなく価値の争奪しかしてこなかった人にはこの事実が理解できず、「他人が得をすれば自分が損をする」と無意識に思ってしまう。だから他人の足を引っ張ることはしても他人を助けることはしない。他人を助けることが自分を助けることだということがわからない。そういう人が自分の成功の秘密を上司や同僚に打ち明けることはない。