議論を忌み嫌う日本文化

なぜ議論が忌み嫌われるのか。その第一の理由は「議論が和を乱す」と言う誤解である。誰かが何かを言ったとき、それに反論すると、まるでその人を罵ったかのように誤解される。だから信頼関係が盤石でなければ大人は反論しない。反論するときは喧嘩を覚悟で反論する。

ディベートにおける議論は違う。議論と人格馬別物なのだ。誰かの議論を否定したからといって、その人の人格を否定することにはならない。それどころか、お互いの人格を完全に尊重し合っているからこそ、歯に衣着せない言い合いが平和にできるのである。

日本においても健全な議論や対話の文化は存在している。「和を持って貴しとなす」の起源である十七条憲法においても、お互いを尊重することを前提として、大いに議論することの大切さが謳われている。

日本文化にディベートが合わない、日本人は議論を嫌う、というのは愚かな思い込みに過ぎない。議論を回避するのは、それが調和を乱す、他人のメンツをつぶす、という心配によるものだ。

議論を人格から切り離す

和なるを以て貴しとし、忤ふること無きを宗とせよ。人皆党あれど、亦達る者少し。是を以て、或いは君父に順はず、乍隣里に違ふ。然れども、上和ぎ下睦びて、事を論ふに諧ふときは、事理自づからに通ひ、何事か成さざらむ。

『日本大百科全書』小学館

和を尊重し、争わないことを宗旨とせよ。人は皆、党派を作るし、物事の熟達者は常に少ない。そのため君主や父親に従わなかったり、近隣と考えが相違したりもする。しかし上の者も和やかに、下の者も睦まじく、物事を議論して内容を整えていけば、自然と物事の道理に適うようになるし、何事も成し遂げられるようになる。(「十七条憲法」フリー百科事典『ウィキペディア』参照

とある。他人と争うのではなく、物事を議論しろというのだ。決して議論を嫌うのではなく無用な諍いを避けよというのである。

一方、ディベートの伝統は古代ギリシアの昔から西洋に伝わる人格と議論の分離である。客観的に物事を直視してことの正否を論じるには「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」にフォーカスしなくてはならない。

残念ながら欧米の政治シーンでは失われていることも多く、アメリカの大統領選などでは対立候補への人格攻撃が日常化してしまっている。しかし、だからこそディベート部の大前提に戻り、議論を人格から切り離す必要がある。

クリエイティブな意思決定を学ぶために、なぜディベートが必要なのか

ディベートとは「ああ言えばこう言う」と言う言い争いのテクニックではないのか、という疑問を抱く人もいるだろう。最初にはっきりさせておこう。ディベート部は論争に勝利するためだけの技術ではない。それは議論技術の使い道のひとつでしかないのだ。

ディベートの本質は、複雑な意思決定を明快に導くためのプロセスにある。国家政策のような重要な決定を行う際に、何を考えたらいいのか。何を知る必要があるのか。何がわかったら決定できるのか。なぜ決定が難しいのか。ディベートの方法は基本的な問いを提示し、どうやって問いに答えたらいいのかも教えてくれる。

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日本ディベート協会(JDA)にSTARクラブチームが出場し、準優勝した時の試合の模様です。

試合は21:10ごろ始まります。

初めて聴く方には、スピーチが速すぎてついていけないのが普通ですが、訓練していくと聞き取ること、書き取ること、反論することができるようになります。

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