ロバート・フリッツが発明した思考法(構造思考・創造プロセス)が革新的であり「人類が発明した中で最も成功した方法」であるにも関わらず、多くの人にとって、ありふれた問題解決アプローチとの違いを理解するのに努力と時間が必要です。それはなぜなのか?構造思考によって何が変わるのか?その方法を誰でも学べるのか?という問いに答えます。

ロバートフリッツが発明した思考法の何が革新的なのか

私たちはふだん状況に反応したり対応したりしている

私たちはずっと、目の前に起こる状況に反応したり対応したりすることを学んできました。私たちがなぜその状況になっているのかをほとんど理解していないのは、いつもの思考癖のためです。人がしているのは「ああしたからこうなった」式の思考です。「なぜこうしたの?」「その前にこれがあったから」。「なぜそうなったの?」「その前にあれが起こったから」。この調子で、いくらでも遡っていけます。

ときに、状況が引き起こすパターンを見出す人たちがいて、これは一歩前進です。と言っても、現実を見るのにより見晴らしがいい場所を見つけただけで、構造的な観点からの因果関係はさっぱりわかっていません。

現実の構造的現象は「緊張は常に解消に向かう」という物理現象

緊張は常に解消に向かうと知ることが決定的に重要です。これは物理的な現象で、構造は均衡を求めるのです。「不均衡」状態になった途端、構造内部で変化が起こり、均衡を達成するまで動き続けます。ただし全ての構造が均衡を達成できるわけではありません。
たとえば、あなたが今お腹が空いているとすると、一般的には食べるという行動が引き起こされるでしょう。これは単純な「緊張-解消」システムです。もっと複雑なシステムもあります。相反する「緊張-解消」システムが競合していて、葛藤を生み出しているのです。あなたはお腹が空いている。だから食べる。でも、もしあなたが太りすぎだったら、望む体重と現実の体重との間に差があることから、別の緊張が生じます。

この構造がどのように作用するか見てみます。

構造によって引き起こされる問題

あなたはお腹が空いています。だから食べます。でも食べたことで体重が増えてしまうため、ダイエットしようと思い立ち、身体が求める量よりも少なく食べることにします。減量に成功し、緊張が解消されると、あなたはまた食べ始めます。そしてまた体重が増えてしまいます。実際にはもっと複雑な葛藤があるのですが、ひとまず今の理解のためにはこれで充分です。食べるのが楽な時期と、ダイエットが楽な時期を繰り返します。実際のところ、ダイエットに取り組んだ人のうち80%が最終的にはダイエット開始前よりも体重が増えてしまうのです。

パターンを繰り返すのは個人の意志の弱さや性格の欠陥ではなく、構造のせい

そんなパターンに陥ってしまう人は、自分のことを「意志が弱い」とか「性格に欠陥がある」などと考えてしまいます。しかし実際に起きているのは、揺り戻し構造によって引き起こされる揺り戻しパターンです。揺り戻し構造では、ある方向への動きは、逆方向の動きを誘発し、ロッキングチェアのように行ったり来たりしています。

理論を持ち出して原因を推測するのは状況思考

状況思考で考えていたら、その場で生じている構造力学を理解することは決してありません。そうなると、あれこれと理論を持ち出してきて推測するしかありません。たとえば、両親との関係のせいだと考えたり、自分は他者から愛情を受けるに値しない人間だと考えたり、だから太ることで愛情から遠ざかろうとしているんだと考えたり、あるいはバーストラウマ(出産時の心的外傷)のせいだと考えたりするのです(もしトラウマがあったのなら)。

理論に飛びついてしまうのは、心が緊張を解消しようとするから

心というのは、緊張を一刻も早く解消したいのです。問いがあれば答えを求めます。ところが、心はとにかく答えが早く欲しくて、目の前に現れたよさそうな答えに飛びついてしまいます。正しいかどうかは関係ありません。慣れ親しんだ憶測で十分です。真実を探ることも、正確性や的確性を追求することも放棄することで、心は容易に緊張を解消した感覚を得ることができます。これは悪しき習慣です。

人は答えを得られない緊張に耐えられない

人は「出来合いの回答」をいつでも持ち歩いています。観念や思い込みのかたまりです。いわば、心のための答えを集めた個人用のデータベースです。答えのない問いや、謎、困惑、その他あらゆる種類の緊張が発生したとき、引けばパッと答えを出してきてくれる回答集です。緊張は常に解消に向かうのです。緊張が生じたその瞬間に、緊張を解消すべく、その人の観念や思い込みが総動員されます。これは正しい答えが導き出されることを意味しません。けれども、構造として、どんな答えであっても答えが得られれば人は気分が良くなります。そして実際に何かを知っているという感覚が得られます。いわゆる「そうか!」という気づきの体験は、たいてい自分が「正しい」答えを得たと感じたときに得られるものです。

問題は、その「正しい」答えが、ほとんどのケースであらかじめ頭の中に用意されていた観念や思い込みに合致するものだということです。別の言い方をすると、「そうか!」という気づきの体験は、もともと自分が考えていたことの正しさを「発見」することだとも言えます。実のところ、本当に正しいことはあまりないのですが、そう感じるものなのです。

古い思い込みを新しい思い込みに入れ替えても何も変わらない

ここで、ある観念の一式を別の観念の一式と入れ替えたとしても、その人の考え方そのものはひとつも変化していません。単に現実と照らし合わせるデータベースが新しくなっただけです。新たな結論に至ることはあっても、元から用意していたものと現実を比較するという思考プロセスには何の変化もありません。人は、自由に連想し、偏った視点を持ち、自分の正しさを主張し、そのために他者と闘います。その間ずっと、どの瞬間においても、同じ思考プロセスに囚われたままでいるのです。そこには、正確で創造的な新しい考え方が生まれる余地がありません。

構造思考は直感や本能で自然に使えるようになるものではない

考え方を変えるには、トレーニングが必要です。どんな訓練でもそうであるように、それは自然にできることではありません。直観や本能と相容れないようにも感じられるでしょう。けれども、有益な訓練とはおしなべてそういうものです。読むこと、書くこと、チェロを弾くこと、スフレをつくること。どれも直観や本能でできることではありません。

構造思考は非常に特殊な領域です。構造思考を要する伝統領域は極めて少なく、従って構造的な考え方が組み込まれて育った人はほとんどいません。明らかに構造思考を要する伝統領域はあります。音楽、建築、脚本制作、数学、ある種の工学がそうです。ただ、これらの分野で教育や訓練を積んだ人であっても、その特定分野に取り組むとき以外に構造思考を用いることは稀です。

明晰な判断のための構造思考

思考は、人間が持つもっとも重要な能力の一つです。何かを判断する際の最大の拠り所は思考であり、どんな判断をするかによって人生の道筋の多くが形づくられていきます。にもかかわらず、多くの人が、成否を分ける構造力学を考慮することなく、重大な判断をしているのです。

私たちは誰でも考える訓練が必要

誰でも考えていて、だからやり方は知っていると思い込んでいます。しかしその前提は間違いです。学校教育で学んでこなかったことがある、ということを知ってください。適切な指南や訓練なしには、心は暴走し、勝手な推論や憶測を持ち出したり、過去の経験の記憶に寄りかかったりして結論を出してしまうことを知ってください。人の心の中はあれこれのガラクタで埋め尽くされていて、明晰さは希少品です。

(ロバート・フリッツ 2018年)

書籍の紹介

Your Life as Art 自分の人生を創り出すレッスン

『自意識と創り出す思考』『偉大な組織の最小抵抗経路』の著者ロバート・フリッツが教える【アートの手法で自分の人生を創り出す方法】

アーティストから学ぶ「創造プロセスの手順・姿勢・精神」
人生に影響を与える3つのフレームを知り、自分の人生を創り出す
自分の人生をアートとして見る。そう、本書のタイトルにある通りだ。アーティストがアートを創り出すように、あなたは自分の人生を創り出すことができる。
自分の人生をそうやって捉えられるようになると、世界は一変する。人生を構築するプロセスにもっと主体的に関わるようになる。本当に創り出したいことをもっと創り出せる。人生経験の質を拡大することができる。
「こんな人生にしたい」と思うことを、ちょうどアーティストが「こんな作品にしたい」と思うように心に抱く。そして、実際にそういう人生を生み出すときに、画家が絵画を描き出すような戦術を用いて実行できる。そして画家が自作品を壁に飾って味わうように、生み出した人生を実際に生きることができるのだ。
別の言い方をするなら、あなたは人生という演目を創り出すとき、脚本家になり、主演俳優になり、そして同時に上演作品の観客にもなれるのである。
人生が作品であるなら、あなた自身がその作者になれる。アーティスト、作家、脚本家、映画監督、作曲家にとってそうであるように、創造プロセスをあなたの人生の基本習慣にすることができる。


偉大な組織の最小抵抗経路 リーダーのための組織デザイン法則 

「前進するか、揺り戻すか“構造”が組織の運命を決める」
「組織を甦らせ、志と価値を実現する普遍の原理」

“企業の長期的パターンを観察することができるようになればなるほど、否定しがたい事実が明らかになる。それは、根底にある構造を変えなければ、どんな変革の努力も結局は水の泡となり、元のパターンに逆戻りしてしまうということだ。
これは決定的な洞察である。根底にある構造が働いていることを知らなければ、企業はいつまで経っても「最新の経営手法」「流行の変革手法」などに引っかかり、破壊的な揺り戻しパターンを繰り返し、屍の山を築くことになる。
これが現実生活で意味するのは、善意と知性とプロ意識を持った才能ある立派な人たちが、構造に抗って勝つ見込みのない闘いを繰り広げているということである。前進したと思えば後退し、進歩は台無しになる。成功が、想定外の問題に化け、集団の力や勤勉さ、組織の精神はことごとくくじかれる。
エドワーズ・デミング博士はもっと辛辣な言い方をしている。「組織が私たちを殺している」と。会社で何年も何年も一生懸命仕事をした挙げ句、長期的には全て水泡に帰すのを目撃するあなたは、実存的な精神の危機に瀕することになる。”

『偉大な組織の最少抵抗経路』ロバート・フリッツ特別インタビュー2019【前編】
『偉大な組織の最少抵抗経路』ロバート・フリッツ特別インタビュー2019【後編】

自意識(アイデンティティ)と創り出す思考

人生やビジネスを創り出すのに自分が何者かなんて関係ない!
―理想や才能にとらわれずに望む人生を生きる

“本書を読んだ読者は少なからずショックを受けるだろう。なぜなら、「自己肯定感」が高くなければ成功は望めないとする教育界の常識を真っ向から否定する大胆な内容だからである。著者は、自分の創り出したい成果のためには、目標を見つけ、必要な作戦を立て、一歩ずつ成果に向かって歩むだけというシンプルな方法を提起し、自己肯定感と 「自分が生きたい人生の構築」とは関係がないと断言する。本書はそれを構造的・精神的・心理的・医療的・生物学的次元から実証する。平易な文章のせいか、一見過激な内容も読み進んでいくうちに肯定的な気持ちにさせられるだろう。”

愛媛大学大学院教授露口健司(教職研修 2019.10)


自意識(アイデンティティ)と創り出す思考 ロバート・フリッツ出版記念セミナー【字幕付き】

禅と創り出す思考 藤田一照×ロバート・フリッツ フルで視聴する場合は https://evolving.theshop.jp/items/15940461