オブジェクティブコーチングのマスタークラスで伝えている鉄則があります。

それは、学んで行動して成果を上げて成長していく全責任はクライアントにあり、コーチにはない、というものです。

プロフェッショナルの役割は、クライアントが学んで行動して成果を上げて成長していくことを全面的にサポートすることです。そしてそれ以上のことはできません。やろうとすべきですらありません。

どんなコーチにも、クライアントの学習や成長を肩代わりすることはできません。クライアントの行動や成果を肩代わりすることはできません。学習・行動・成果・成長は全てクライアントが所有することであり、全てクライアントが責任を持つことです。

このことはあまり一般的に知られていないかもしれませんが、プロフェッショナルのコミュニティで共有されている原則です。また、筋を追って考えていけばこれ以外にない真実に基づいた鉄則です。

プロのコーチは、この知識を肝に銘じた上で、実践に反映していく必要があります。

相手の学びや成長を肩代わりできないのならば、コーチは一体全体何をすべきなのか。そして(もっと重要な問いですが)何をしてはいけないのか。

コーチはクライアントの現実をできるだけ正確に観察し、クライアント自身が客観的に理解することを助ける必要があります。

現実は大人の味です。ときには蓋をして見るのを拒否したいような辛い現実も存在します。しかし現実から目を背けている限り、長続きする学習・行動・成果・成長はあり得ません。そして辛い現実であっても、しっかりと両目を見開いて受け入れていくことによって真の学習・行動・成果・成長が可能になります。

また、コーチは決して安易に助言したり助力したりしません。助言や助力はそれが本当にクライアントの学習や成長を促すと思えるときに限定されます。また、現実の理解に基づいてでなければ助言や助力は行いません。日常生活や社交的なコミュニケーションにおいては安易にアドバイスすることがあります。困っている人を見たらすぐに手を差し伸べたくなるし、知っていることがあったらすぐに教えたくもなるでしょう。プロフェッショナルコーチングにおいて安易に手を出したり口を出したりすれば、それはクライアントが自分で考え、自分の足で立ち、自分で行動するチャンスを奪うことになりかねません。ですから助言や助力は極めて限定的にしか行わないのです。

私はこの鉄則を、コーチングを始めた二十数年前に知り、自分の実践の中に規律として取り入れて現場で学んできました。規律というのは不自然なものです。頭でわかっていても規律に反することをやりそうになってしまいます。だからトレーニングが必要だし、実践経験が物を言うのです。

しかし規律は必ず私たちを目的に近づけてくれます。プロとしてすべきことをやり、すべきでないことをやらないようにすれば、規律のない自然なコミュニケーションでは不可能なことが可能になります。

そこまで行くと、プロフェッショナルの鉄則は実り豊かな成果をもたらしてくれるのです。