経営者はよくこんなふうに考える。高い給料を払って雇ってるんだから、放っといてもちゃんと仕事してくれないと困るよ、と。これは一理ある素朴な疑問である。しかし現実を見ていないのだ。一流のプロフェッショナルであっても指示を必要とするのである。誰がやってもうまくいかない場合はある。そういうときにうまくいかないことを使って学習経験にするといいのだ。また、それを単独でやるよりも、力を合わせて作業したほうがいい。組織の中の誰かが自分の力を最大限引き出す手助けをしてくれるといいのである。

誰の指示も支援も要らないほど自己完結している人間はいない。目標、役割、規範、ルール、指針などを明確に知りたいこともある。自分の能力を遥かに上回る大きな目標に直面して、力を伸ばす必要を感じることもある。自分の身の振り方、状況の見立て方、リーダーシップの発揮の仕方などについて、お手本が欲しいこともある。自分が素晴らしい成果を上げたときに「よくやった」と認めてほしいこともある。

組織における「メンター」という言葉を聞くようになって久しいが、たいていの人はメンター関係というと経験を重ねた年配のベテランと将来有望な新人の組み合わせだと思っている。多くの組織において、メンターがいるのは若手のスーパースターだけで、他の人は自分で自分の面倒を見るものと思われている。

メンターをもっと広い意味で理解することもできるし、そのほうが役に立つ。誰が誰のメンター役にもなれるということだ。もちろん経験豊かな人から学ぶことはできる。しかし経験の浅い人から学ぶこともできる。経験がない人は先入観もないので、新鮮な質問をしてくれるのだ。メンターは組織の中の上にも下にも横にも見つけることができる。

プロフェッショナルとは学び続ける存在である。歴史上の偉人の伝記を読めば、彼らが常に学び続けていることがわかる。すでにその領域を極めている人が、常に新たに学び、考察し、熟考している。

組織における変化のスピードはこれまでになく速い。過去の成功体験にすがって仕事をしていくのではとても足りない。ひとつの職業を究めて残りの人生は同じ方法で仕事をする、などという大昔のやり方は今の時代には不可能だ。グローバル経済変動、技術革新、市場の大変動など、予想外の変化が組織人を襲い、仕事のルールを覆していく。学び続けることこそが組織における最も決定的な競争優位となっている。

しかし、学習というのは抽象的なお題目ではないし、企業が学習する組織になると宣言したところで自動的にそうなるわけでもない。人が学んでいるという事実によって学習が起こる。個人と組織の両方のレベルで学んでいなくてはならない。

あなたの組織が使命を果たすには、組織学習プロセス全体におけるあなたのメンターとしての役割が重要だ。ブルーシールド社においては、メンターシップがリーダーシップの原則のひとつである。リーダーはすなわちメンターでなくてはならない。この原則の知恵を理解しているのはブルーシールド社だけではない。

偉大なリーダーは同時に偉大なメンターである。偉大さは組織の中に相当な学習を組み込まなければ可能にならない。メンターシップは世界の現実の中でリアルな仕事を通して行う学習が基礎になっており、メンターシップこそが学習を直接実現する道だ。したがって、メンターシップは実践的で、的を射ており、即時性があり、重要でわかりやすい。全てMMOTが推進する要素に他ならない。

(ロバート・フリッツ著 MMOT: Managerial Moment Of Truth 第2章から抜粋翻訳)