私が企業クライアント(法人顧客)のためのプロフェッショナルサービスの仕事を始めて33年、経営コンサルティングの仕事を始めて23年になります。

この仕事を始めた頃は、大きな山を相手にしているような気分でした。圧倒的なサイズの組織・事業・業界・経済・社会に対して、あまりにも自分の存在がちっぽけに見えたものです。巨大なシステムのほんの一部のパーツを自分が担当して、なんとか少しでも貢献できたらと思って働いていました。

その意識が決定的に変わったのは1992年にピーター・センゲやロバート・フリッツの著作に出会い、「急所を見つければ社会・組織・集団は変わるんだ」と悟ったことがきっかけです。

そして20年前にある変革プロジェクトに取り組んでいるとき、とても個人的な気づきがありました。

変革プロジェクトの中では企業の価値拡大や事業の成功、利益の創出や新規市場の開拓、技術革新や組織発展などの具体的成果目標を掲げ、スポートのチームのようにゴールを目指してメンバー全員が邁進しています。そして野心的なプロジェクトほど失敗するリスクを抱え、歯痒い思いをしたり、挫折を経験したりします。

しかしハードな仕事に没頭したメンバーは必ず大きな学びを得て成長し、次の仕事に向かっていきます。

仕事を通じて人が成長していくこと。豊かな人間関係が育まれること。発見や洞察に恵まれること。それによって人生が変わり、新たなチャレンジができること。これに優ることがあるだろうか。そのプロセスに関わること、携われること以上の喜びがあるだろうか。

そう思ったのです。

ただし、そういう大きな喜びがあるのは、ひとえに大きな目標に邁進しているからです。ハードワークなしにスピリチュアルなボーナスだけを獲得することはできないのです。

それから20年、自分の心の中に深く根を下ろした中心的価値観は一度も揺らぐことがありません。

人間的成長や豊かな人間関係は、それ自体を求めて勉強して得られるものではなく、価値ある目標を定めて全力を尽くし、成功や失敗を重ねて自ら学んでいくことでしか得られない。

そしてそれが獲得できたときは、「生きてきたプロセスだけで十分だ」と心から思えるのです。

サッカーの試合と同じです。試合中は必死で勝ち負けを争います。試合前も必死で勝ち負けを考えます。試合後は勝利を祝い、敗北を悔やみます。しかし精いっぱい戦って全てが終わったとき、「精いっぱい戦った。それで十分だ」と思えるのです。