カネヴィンフレームワークって何? どういうときにどうやって使えるの? という疑問に答えます。

複雑さを読み解く地図としてのカネヴィンフレームワーク

カネヴィンフレームワークは、しばしば不可解な現実の中に意味を見出し、私たちの意思決定を強力にサポートしてくれる。

現実の複雑さを観察するための新しいフレームワーク

クリエイティブな意思決定の出発点は今の現実である。しかし今の現実そのものがよく見えない、複雑すぎて把握しきれない、不確実なことばかりで先のことがわからない、ということが多い。

「複雑で不確実な状況に置かれた人や組織は、どうやって創造的で長続きする変化を実現できるのだろうか」

私がカネヴィンフレームワークに出会ったときの問題意識はこれである。2005年9月にウィーンで開催された第2回組織学習学会カンファレンスで初めてカネヴィンフレームワークを知ることになった。

それまで私は複雑なシステムを解明するアプローチとして知られるシステム思考(システムダイナミクス)を学び、私の本業である組織開発や人材育成・リーダーシップ開発に活かそうとしていた。ジェイ・フォレスターの創始したシステム思考は素晴らしい方法論だ。工学をバックグラウンドにして複雑な世界を分析し、因果の連鎖を目に見える地図に変えていくツール群を発展させている。

しかし教室や教科書で学ぶシステム論が、現場や職場で使えない。アカデミックな学びが実際に活かせない。そういう不満の声を聞くことが多い。

もともと私の関心は学校や教室の中での学びではなく、現実の世界を良いものに変えていくための学びにあった。だから長い時間をかけて難しい理論を学んだのに現実に応用できないでいる人たちを見るのが歯痒かった。

ところがカネヴィンフレームワークは、現実の複雑さをよく観察し、その複雑さの度合いや種類に応じて思考や行動を変えることを教えてくれた。場に応じて意思決定の仕方を変えたほうがいい。

カネヴィンフレームワークはアカデミックな複雑系の理論と、実用的な経営の現場との間に、見事な橋をかけてくれたのである。

この新しいフレームワークを用いた思考法のことをカネヴィン思考と呼んでおこう。カネヴィンとはどういう意味なのか、そしてカネヴィン思考によってクリエイティブな意思決定がどう可能になるのかについて詳しく見ていきたい。

「今どこにいるのか」私たちはわかっていない。

カネヴィンとはウェールズ語で、私たちの生息する居場所のことを指す。このフレームワークを開発し、自ら命名したデイヴ・スノーデン(ウェールズ出身)に聞くと、もともとは日本の野中郁次郎氏によるSECIモデル(場の理論)に触発されたのだという。

私たちは自分のまわりで何が起こっているのか、わかっていないことが多い。わかっていないにもかかわらず、わかっているつもりで意思決定し、わかっているつもりで行動してしまう。無知の無自覚が意思決定を狂わせる元凶だ。

わかりやすい極端な例を挙げよう。歴史に前例のない先の見えない状況で、「自分の経験から、こういうときは思い切って前に進むのがいい」と言って無鉄砲にリスクをとってしまう冒険者たち。逆に同じ状況で、「どんなリスクがあるのか調べ尽くして徹底的に分析してからでなければ決定できない」と分析過剰症候群に陥る分析家たち。

あるいは、新しい事業・製品・サービスを開発しているときに、「ベストプラクティスに従って計画しろ」「いつペイオフするのか数値化しろ」「失敗しないように実行しろ」などと既存の事業・製品・サービスに対する基準を強要する経営者たち。あるいは、専門家を雇って分析すれば方法が判明する状況なのに、自分たちだけで試行錯誤を重ね、釣り合わない資金や時間を投入してしまう起業家たち。

これらは全て、今の状況がわかっていないのに、わかっていると思い込んでいるために起こっている錯誤である。

デイヴ・スノーデンは、「コースに合ったホースを」(horses for the courses)という英語の諺の教える知恵こそがカネヴィンフレームワークの眼目だと言う。乾いた地面を走るのが得意な馬もいれば、湿った地面を走るのが得意な馬もいる。人にも道具にも得意不得意がある。

つまり、今いる場所(カネヴィン)がどんな場所なのか、その場所に見合った思考法・意思決定方法はどうあるべきなのか、を知ることができれば、私たちは適材適所の「馬」を活用することができるのだ。カネヴィン思考の第一歩は、意思決定しようとしている自分が「今どこにいるのかを知らない」と自覚することである。ここからカネヴィンフレームワークの5つの領域を詳しく見ていこう。

複雑さには種類があって、紐解くことができる。

スタート地点では、まだ自分が「今どこにいるか」をわかっていない。現在地は「謎」である。あるいは混乱しているかもしれない。

明白系(Clear system)は誰でも作れる簡単な料理のレシピ

そこで今いる場所をよく観察すると、もしかしたらそこは因果関係が明白で、自明で、単純な場所かもしれない。もしそうであれば、そこはカネヴィン用語で言う明白系(明白なシステム)である。明白系においては、よく見れば何をすべきかわかる。決まったやり方やベストプラクティスが存在する。標準的な手続きに従って正しく決定すればいい。

例を挙げると、レシピを見て簡単な料理を作るようなケースだ。もう大昔のことだが、家でチャーハンを作って長男に食べさせたとき、「おとうさん、チャーハンのつくり方をネットで調べたほうがいいよ」と言われたことがある。私はなんとなく自分の感覚でご飯を炒めたのだが、チャーハンの炒め方だったらレシピがあって、火の使い方や調味料の使い方が書いてある。レシピに従って順序正しく調理したほうがうまくできるというわけだ。実際、レシピを参照して炒めただけで相当マシなチャーハンを作ることができた。

煩雑系(Complicated system)は専門家が見れば正しい判断ができる

一方、観察してもよくわからず、専門家が見ればわかるというケースもある。そこでは因果関係が煩雑で込み入っており、簡単にはわからないが、専門技術や分析によって正確に読み解くことができる領域だ。もしそうであれば、そこはカネヴィン用語で言う煩雑系(煩雑なシステム)である。

例えていうと、レントゲン写真やMRI検査の画像である。煩雑系では分析や専門家を使うのがポイントである。もし自分が専門家なら、必要なデータさえあれば正しい判断を下すことができる。もし自分が専門家でないなら、専門家に依頼して正しい判断を下すことができる。分析もせず、専門知識もなしに、自力で正解にたどり着くのは難しいが、因果関係に再現性があり、何らかの正解が存在する領域である。

複合系(Complex system)は正解が存在せず、試行錯誤で答えを探求する

次に、分析や専門家では解答を導き出せない複雑さがある。因果関係に再現性がない状況である。全く体験したことのない新しい状況で、これまでの知識や経験則が役に立たないばかりか、むしろ足枷になる。因果関係は事後的に分析できても、そのときリアルタイムには判断できない。もしそうなら、これは複合系(複合的なシステム)である。

私たちの仕事や人生におけるさまざまな状況が複合系に当てはまる。複合系には正解が存在しない。実験や試行錯誤によって私たち自身が新しい知識を発見し、新しい答えを創り出していかなくてはならない。

混沌系(Chaotic system)戦場のような極度の混乱は潜在的チャンスにも

最後に、因果関係がまるで不明で、ランダムな状況がカオス、混沌系(混沌としたシステム)である。混沌系は、多くの場合、意に反して到来する。突然の天変地異、テロや戦争、あるいはまるで戦場のような極度の混乱、秩序の崩壊である。企業組織が官僚的になり、大企業病にかかり、あたかも全てが既存のルールで動いているかのように硬直化すると、環境に適合していないことに無自覚になり、突然破綻することがある。組織の外部環境が変化しているのに、組織の内部がそれに応じた変化をしておらず、危機に陥るのだ。これは混沌系の例である。

混沌系は多くの場合、秩序を喪失した危機状態であり、危険な領域だ。しかし危機は(よく言われるように)潜在的な機会でもある。破壊によって失われるものがあると同時に、新たなチャンスが訪れていることも多い。また、混沌系は意図的に利用することもできる。新しいシステムを構築したいのに古いシステムが居座っていて、変化を起こすのが難しいとき、戦略的にカオスを歓迎し、新しい秩序の構築を図るケースである。

以上、カネヴィンフレームワークにおける5つの領域を駆け足で紹介した。

謎・混乱(Aporetic/Confused)、続いて明白系(Clear Systems)・煩雑系(ComplicatedSystems)・複合系(Complex Systems)・混沌系(Chaotic System)の4つの系である。「コースに合ったホースを」の精神で見るなら、「今どこにいるのか」を見極めることによって、私たちは意思決定や行動をより効果的に選択できるようになる。

「今どこにいるのか」を見極めると、既知のツールやメソッドを活用できる

「今どこにいるのか」を見極めず、自分の思い込みで領域(カネヴィン)をわかったつもりでいるのは危険である。ひとつの領域で有効な行動が、別の領域では命取りになりかねないからである。

自分の居場所を確かめ、アプローチを変えるカネヴィン思考によって複雑な状況を理解し、クリエイティブな意思決定を下すことが可能になる。それだけでなく、私たちがすでに手にしているツールやメソッドを、的確に活用することもできるようになる。「コースに合ったホースを」使えるようになるのだ。

秩序的な世界と非秩序的な世界ではアプローチが違う

私たちの世界は常に複雑さや不確実性に覆われている。安定した秩序的な世界で有効なアプローチが、不安定で非秩序的な世界では逆効果になる。

前述の通り、私たちは当初から自分の居場所(カネヴィン)を正確に知っているわけではない。自分の馴染みの場所にいると思い込んでいるだけかもしれない。そこでカネヴィンフレームワークを使って状況を見極めることが役に立つのだ。

自分が今どの系にいるのか、どうやってわかるのだろうか。新しい状況に直面したとき、立ち止まって確かめてみよう。カネヴィンフレームワークの4つの系の特徴を対比する。この4つの系の違い、特に複合系をしっかり理解しておきたい。

  • 明白系:原因と結果のパターンが誰の目にも明白で、再現性がある。
  • 煩雑系:誰の目にも明白ではなく、調査や分析によって理解できる。
  • 複合系:因果関係が複雑で、後知恵でしか理解することができない。
  • 混沌系:因果関係は解明不可能で、危険で、長居する場所ではない。

4つの系における有効なアプローチを対比してみる。

  • 明白系:ベストプラクティス。標準的ルール。マニュアル。実行する。
  • 煩雑系:専門家に相談。調べて分析する。プロジェクト管理。PDCA。
  • 複合系:直観的なアクション。試行錯誤。セイフフェイルな探索実験。
  • 混沌系:即断即決。ダメージコントロール。秩序回復。複合系に移行。

参照:「不確実な世界を確実に生きる」第1章カネヴィンフレームワークとは何か)

『CREATIVE DECISION MAKING 意思決定の地図とコンパス』田村洋一著(2021年 Evolving)カネヴィンフレームワークの章からの抜粋

誰でも使えるカネヴィンフレームワーク(動画解説)

カネヴィンフレームワークに初めて触れる方向けの解説動画です。

フルサイズで54分間の動画です。視聴をご希望の方は下記よりお申し込みください。(500円)

書籍の紹介

『不確実な世界を確実に生きる 〜カネヴィンフレームワークへの招待』

世界で初めてのカネヴィンフレームワーク解説書をCovnitive Edge(コグニティブ・エッジ)との共著で2014年、Evolvingから出版しました。

  • 「カネヴィンとリーダーシップ」ハーバード・ビジネス・レビュー巻頭掲載(2007年)
  • 米国経営学会「ベスト・プラクティショナー・ペーパー」受賞
  • 複雑な世界を確実に生きるための《カネヴィンフレームワーク入門書》
    • 常に移りゆく現実の複雑さを見極めるには
    • 複雑で不確実な状況でも臨機応変に意思決定する方法とは
    • 現実に潜む可能性をあぶり出す「セーフ・フェイル(失敗しても安全)な探索」とは

『CREATIVE DECISION MAKING 意思決定の地図とコンパス』 田村洋一著(Evolving 2021)

これまで数多くのビジネスパーソンやエグゼクティブ層の意思決定を助けてきた著者がまとめた「創造的意思決定」の全て。本書で語られる「創造的意思決定」は、読者の意思決定の考えを大きくアップデートすることになるでしょう。意思決定について学びたい方、意思決定をアップデートしたい方/望む成果や価値を創り出したいビジネスパーソン/常に難しい決断を迫られるリーダー層/起業、キャリアチェンジ、結婚・離婚など人生の転機にいる全ての人々にお薦めします。

デイブ・スノーデンのビデオ

Cynefin Frameworkを提唱したデイブ・スノーデンによる2010年に作られた解説ビデオ(英語)です。

田村洋一によるデイブ・スノーデンへの2018年のインタビュービデオ(字幕付き)です。

カネヴィンフレームワークをさらに学ぶ

カネヴィンフレームワークを習得すると、個人や組織の意思決定において簡単に活用でき、チームで共有できます。ワークショップではさらに深く広く応用する方法を紹介し、演習を行います。

カネヴィンフレームワークの要は複合系のマネジメントです。複雑さや不確実さに直面する企業のリーダーシップ、マネジメント、イノベーションの現場など、既存の知識や経験則が役に立たない、経験したことのない新しい状況(複合系)で求められる意思決定やアプローチを、実践的に学ぶことができます。お気軽にお問い合わせください。