アイン・ランドの哲学オブジェクティビズム(客観主義)においては、倫理的であることと実用的であることは対立しない。それどころか、完全に一致する。

世間で道徳・倫理と言えば「殺すな」「盗むな」「姦淫するな」などの禁止事項や、「自分のことを後回しにして奉仕しろ」「世のため人のために仕事しろ」などのように、自分が望むこととは反対のことを命じられる印象があるだろう。

客観主義・倫理的利己主義においては逆である。「自分のために生きる」ということが道徳的であると同時に実際的なのだ。

これが利己主義と利他主義の大きな違いでもある。

人が幸福に一生を生きるには「自分のために生きる」必要がある。ところが利他主義のイデオロギーは「他人のために生きろ」と命じてくる。そこに最大の葛藤が生じるのだ。

倫理的利己主義には葛藤がない。誰かのために何かをするのは自分の選択だ。他者を助けることそ自体は「自分のために生きる」ことと矛盾しない。それどころか、むしろ自分にとって大切な他者を助けることこそ真に利己的であり、「自分のために生きる」ことそのものなのである。